妖魔遊戯

 試行と遊戯、恋文と再会の物語。

 紫煙の発ち込む荒野続きの世界。昼夜問わず赤い三日月―――月世界とはまた別である―――が浮かぶ妖魔界の一角に、その屋敷はある。皆その屋敷を、主人の趣味で集められた骨董品の多くが古い遊具であることから、遊戯邸と呼ぶ。
 元々己の業に貪欲である妖魔の種族。主に他者との殺戮を楽しむ者や、それを傍観するといった、躍動的で緊迫感のある、彼らが面白いと感じることに業を抱く者が殆どである。その中、珍しくも遊戯に魅せられた一匹の妖魔がいた。彼の名はドランク。モスグリーンの寝癖かかった中途半端な髪に、人間で言う中年を臭わす無精ひげの男。この男こそが遊戯邸の主人であり、古い遊具を愛する妖魔である。
 ただ遊具を用いて楽しむだけでなく、自ら遊戯を考案し試験を行うこともある。今尚、20から30種類くらいの遊戯を行っており、その中にルナの宝石採取や人間界侵略といった無粋なものが紛れている。もちろん、ただ一人で行うにはつまらないので、住人達にも参加させているのだ。その住人の一人、紫のポニーテールに灼眼、鬼手の異名をもつユナ。彼女は、本来殺戮を楽しむ部類の妖魔であるが、ドランクの人柄(妖魔気質?)に惚れ込み、この屋敷に身を置いている。彼と彼女を筆頭に、数年に渡る遊戯が行われているのだ。
 今回は少し変わった遊戯を思いついたらしく、ドランクの指示により本館の居間に何人か集められた。ユナも今回の遊戯については聞かされておらず、居間の赤いソファーにもたれて主人を待っていた。

「つーか集まったのはこれだけ?」

 集まった顔ぶれを一瞥し、ユナは退屈そうに言った。

「何か不満か?」

 ユナに反応し、黒色の髪に紫の瞳、チマチョゴリのような衣装を着た矮躯の妖魔、夢魔が、ユナよりも退屈そうに、更に気だるく鬱陶しそうな声色で返答した。

「あー、不満というより不足だ。」

 彼女の言う不足。集まったのはたったの3人。正にこれだけである。

「何かでかいことやると思ったんだが…。」
「なんなら私の夢魔でいい夢見させてやろうか?」
「あんたがそんな面倒くさいことやるはずないでしょ。」
「さすがユナ、わかってるじゃんか。」
「…。」

 なんだか喧嘩しているような会話であるが、彼女らの間ではこれが普通である。
 夢魔とユナが適当な会話でやり取りをしていると、もう一人の住人が言葉を割り込ませた。

「それにしてもこの三人が集まるのは久しいですね。」

 束ねられた抹茶色の髪にブルーの透き通った目、どこかオランダ風な衣装を着こなす猫耳の女性、メーディス・ラ・フランは、笑顔で述べた。

「そーいえば、天使の翼をもごうとして天界に行ったとき以来か…。」
「もごうとしたのはユナだけだ。あれは天使の羽を拾ってくる遊戯だったはずだ。」

 ユナと夢魔も、多少の認識の違いはあるものの、その時のことを思い出した。

「たしか、その時出会った天使はどうしてるだろうな?」

 ユナのふとした問いに、メーディスが答える。

「あの後文通を始めました。今も天界の守護をしているそうですよ。」

 メーディスの回答に、ユナは自分がドランクに抱いている想いとどこか似ているものを感じた。

「会ってはいないのか?」
「ええ、文通だけですよ。」
「そーか。」

 ユナは、いつかメーディスとその天使を会わせてやろうと心の中で思った。
 そうしているうちに、主人の気配に逸早く夢魔が気付き、居間の扉を開いた。

「主人、呼んでおいて遅いぞ。」
「すまないな夢魔。それじゃ早速今回の内容を伝えよう。」

 ドランクはユナと対になるソファーに腰を下ろすと、今回の内容を語りだした―――。


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