世開幕

 新たに紡がれた、新世界の中心から少し北の位置に、かつてエターナルと呼ばれていた月世界の城が、統合前と同じ状態でそびえ立つ。その城の一室で、シンシアを抜いた統合前の会議に参加していた面々はマオの計画について議論していた。空席の議長席から、右側の席にホークアイとローレライ、左側の席にアルテミス、ヨヅキ、ユナが並ぶ。題材は主に法と治安、政策と再建など、近い将来の内にしておかなくてはいけない世界の基準、規律の定義の統一であった。五星同盟で定められた定義を土台とし、改善すべき所や新たな意見を取り入れ、慎重に決定事項をまとめ上げていく。
 そして、また新たに一つの難点が解決され、七時間ぶりに休息を取ろうとしていたときだった。

「ここが同盟の中枢なんだね。」

 会議室のドアが爆破音と共に吹き飛び、そのドアの前で警備していた兵士がその場に倒れる。爆発による煙に混じって三つの影が浮かび上がり、それがこちらに近づいてくるのが分かった。

「はじめまして。」

 その声は、とても先ほどの爆発音に不相応で、明るく繊細な少年のものだった。

「そして、さようなら。」

 その声を合図に、少年の後ろに控えていた二人の男が勢いよく五人に牙を向いた。



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「太刀の錆にしてくれよう!」
「―――っ!!」

 二人のうち、大げさなほど大柄な体つきの大男がヨヅキに巨大な太刀を振り下ろした。ヨヅキはその太刀筋を自らの太刀で弾き、軌道を変える。弾かれた巨大な太刀は深々と床に刺さり、斬るというよりも潰すに近いその破壊力を見せ付けることとなった。

「小生の太刀筋を変えるとは、なかなかに面白い。」

 大男は不適に笑い、深々と刺さった太刀を片手で軽々しく抜き、そのまま肩に乗せた。

「我が名はフリード。革命派の四天王にして魔人と恐れられる剣豪である。」

 魔人は、またもや片手で巨大な太刀を振るい、そのヨヅキの身長と同じくらい丈のある太刀をヨヅキに向け言い放つ。

「何人たりとも我が太刀の前では恐怖し、その恐怖を抱き絶命するが運命。そなたにもその末路、小生の手解きにて導いてやろうぞ!!」

 言い切るや否や、魔人はその手に握られた太刀を大きく振り上げ、真っ直ぐにヨヅキへと振り下ろす。

「月風―ツキカゼ―」

 ヨヅキは太刀で竜巻の斬圧を飛ばし応戦するが、やはり太刀筋を微妙にずらすことしか敵わない。

「その太刀捌きは見事だが、力不足では団扇にもならぬぞ。」

 魔人は嘲笑い、尚も巨大な太刀を振り下ろす。その度にヨヅキは斬道をずらし、相手の隙を覗う。

「隠鬼―インキ―」

 苦戦するヨヅキに見かねて、ユナが妖魔の力を放った。魔人の足元に異次元の空間が広がり、そこから鬼の手が現れ魔人を握り潰す勢いで巨大な体を握り締めた。

「同素振動で覚醒した人間がいることは分かってたが、案外あっけないものだな。」

 ユナは確実に捉えた感触を確認し、ヨヅキも目の前で鬼の手に捉えられた魔人を見て安堵する。しかし、それはあくまで一瞬のことであった。

「生ぬるい。」

 握られた鬼の手の中から声が漏れ、その瞬間鬼の手が木っ端微塵に吹き飛んだ。

「この程度の力では、我が身を亡ぼすことは愚か、傷一つつけることなどできぬぞ!」

 魔人は咆哮し、ヨヅキとユナは気を引き締めなおす。両者睨み合う中、やはり魔人は不適に笑い、また巨大な太刀を構えた。



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「試作段階の迷宮ですが、存分にお楽しみください。」

 眼鏡を怪しく光らせ、ホークアイとローレライの前に立つやせた男が闇の中へと消えてゆく。そして、代わりに現れた高い壁が四方を囲み、対面する二つの壁が二人を潰すようにじりじりと迫ってきた。

「私の作り上げた領域から出られたなら、命の保障だけはいたしましょう。」

 姿は見えないが、どこからともなく聞こえる男の声、尚も迫り来る高い壁、突如現れたこの空間に動揺しつつも、二人は冷静さを失ってはいなかった。

「陽炉融解―メルトダウン―」

 ローレライは胸の前で手を合わせ、己の力の解放を行う。彼女の上空に紅く渦巻く炎の雲が現れ、そこから太陽を連想させる炎の塊が彼女に勢いよく放たれた。それを受けた彼女の体は赤く紅く変色し、顔、体、翼の先から足の先まで全てを赤一色の姿になる。

「ホークアイさん、私の後に付いて来てください。道は私が作ります。」
「ローレライ殿、後方は僕が死守いたします。」

 二人は同じタイミングで頷き、まずはローレライが力を発揮する。

「融解光線―メルティレイズ―」

 赤一色の片手から放たれた光線が壁を溶かし、人が通れるほどの穴を開ける。

「今の内です。」

 ローレライの指示で二人は迫る壁の空間から脱出する。しかし、その先にあったのはまた罠の仕掛けられた空間であった。

「危ない!!」

 ホークアイがローレライの前に出、いきなり飛んできた刃物を居合い抜きで弾き落とす。

「助かりました。」
「ローレライ殿が無事でなにより。ここの仕掛けは僕に任せてください。」

 ホークアイは空間のほぼ中心まで進み、剣を抜く。その間、飛んでくる刃物は無かったが、抜いた瞬間先ほどと同じく真正面から刃物が放たれ、それをいとも容易く弾き落とした。

「場所ではなく一定時間ごとに飛び出すようになっている線が有効か。」

 ホークアイは目を閉じ、剣を構え静かに時を待つ。その間、何度か刃物が飛んでくるが目を開かず、しかし確実にそれを弾き落とした。

「蒼き龍、その内に秘めた静寂を氷の刃へと変え―――、」

 後方でローレライが見守る中、ホークアイは集中し、彼の剣の流派である双幻二刀流の奥義を試みる。

「紅き龍、その逆鱗に触れし何人を炎の刃で返り討つ。」

 言い切ると同時に、ホークアイは目を開く。その目には、右に蒼き龍を宿し、左に紅き龍を宿していた。

「所詮この空間は幻に過ぎない。今の僕の目には、貴様の姿がはっきりと映っている!」

 ホークアイは言い放ち、ローレライの方に向き直る。そして、二つの剣を体の後方に構え、勢いよく地を蹴り、一直線に駆けた。

「捉えた!!」
「お見事…。」

 ホークアイが交差するように振り下ろした二つの剣は眼鏡の男本人では無く、その映像を映し出している装置を破壊した。それと同時に、今までそびえ立っていた壁は消え、元の部屋が目の前に現れる。


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