世開幕

「これは挨拶代わりです。」

 アルテミスと対峙するマオはにっこりと笑って言う。

「いや、宣戦布告っていうのかな。」

 両者お互いに心を乱すことなく、冷静に目を見つめあう。その奥に潜むものを探るべく、ただ言葉を交わしながら奥を見据えた。

「宣戦布告ですか。それにしては大層派手ですね。」
「このくらい派手じゃないと印象に残らないからね。こういうのは嫌い?」

 マオの問を無視し、アルテミスが問う。

「なぜ世界を統合に導き、この統合世界の頂に立とうとするのでしょうか?」
「ボクが先に質問したんだけど、まぁいいや。」

 そのアルテミスの行為に嫌気を見せるでもなく、マオは躊躇なく答えた。

「あの世界が嫌になり、この世界を良くしようと思うから。こんな感じかな。」

 声のトーンや明るさに変化は無く、むしろ真摯に答えている。目の前の少年が言っている事が真実かどうか以前に、好き嫌いを世界の単位で考えている彼の感覚、アルテミスはその部分にこの少年の危険性を見出した。

「それはつまり、君にとって都合の良い世界にしようということでしょう。我侭はいけませんと親に教えられなかったのですか?」

 その危険性の度合いを測るため、更にはその根源となる原因を探るため、アルテミスの言葉による攻撃が始まる。

「両親はボクが生まれてすぐくらいに亡くなったからね、そういうことは全部姉さんに教えてもらったよ。」

 その攻撃に引かず、マオは真摯に答える。この答えから、アルテミスは根源を両親の死と一瞬思ったが、声の流れに変動を感じず、彼にとってさほど問題になっている過去ではないことから、その可能性はなくなった。ならば、先ほど彼が口にしていた姉の存在、ここにヒントがあるのではと思い、アルテミスは追撃する。

「なら君のお姉さんがしっかりしてないから、君がこんな風になってしまったのですね。」
「違う!!」

 言い切ると同時に、今までの彼のものとは比べ物にならないほど怒りに満ちた声が返ってきた。マオの握られた手は小刻みに震え、見るからに怒りを露にしている。アルテミスの追撃は、どうやら彼の根源に直撃したようだ。

「ここまでボクを育ててくれたのは姉さんだ!お前に姉さんの何が分かる!!」

 彼の必死さを見て、危険度を再認識する。

「気が変わった。フリード、ラビリンス、今日は帰るよ。」

 急遽マオに呼び止められ、各々は戦線を離脱した。そして、マオの後ろに控え、彼より一足先に部屋を後にする。

「もう少し話をしたかったけど、お前の言い方が気に入らない。」

 一人振り返り、マオはアルテミスを見据えて言う。

「然るべき場所で、お前の最期を用意してあげる。」

 アルテミスは動じず、マオに攻撃を仕掛けようとするユナとヨヅキを手で制し、彼が去って行くの最後まで見届ける。

「女神の眼前、そこがお前の最期には丁度いい。」

 その言葉を最後に、マオは二人の部下と共に崩壊寸前の城を後にした。



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「ひどいありさまね。」

 マオの宣戦布告から数時間後、ソワと黒騎士が城を訪れた。数時間前まで、統合前とまったく変わらなかった城が無残にも所々で爪痕を残している。着いたばかりのソワでも、何があったかあらかた想像に苦労しなかった。

「ヴァルキュリスの主がこのような所に顔を出すとは、驚きですね。」
「月の城がこんなになっている方が驚きよ。」

 アルテミスは数時間前の出来事をソワに話し、ソワもそれを静かに聴いていた。

「一通り話すとこんな所です。では今度はあなたがここに来た理由を覗いましょうか。」
「それは言うけど、その猫を被った言い方、もうしなくても良いんじゃないかしら?」
「おっと、見抜かれてましたか。なら、賢人会議のとき同様、普通の言葉遣いを心がけよう。」
「今後最初からそうしてもらえると助かるわ。」

 一呼吸置き、ソワは話し始める。

「マオの協力者であるメロウ。彼女を殺すのは私の役目だから、極力手を出さないで欲しいと言いに来ただけよ。」
「むしろメロウをどうにかしてくれるとこちらも助かる。できるだけ殺さないようにはしよう。」

 異論はないとばかりに、アルテミスはソワに了解を示した。メロウとの戦いは少なければ少ないほど被害も少ない。無闇に戦う相手ではないとアルテミスは判断しているため、倒してもらえるのであれば好都合なのだ。

「絶対を付けてくれるとありがたいけど、あなた達の力じゃあてになりそうにも無いわ。」
「なら協力してくれると助かるが、ヴァルキュリスの頂が力を貸すはず無いか。」

 無理を承知で、協力を試みる。しかし、彼女が何のメリットも無く力を貸すはずが無いことはアルテミス自身も知っていた。無論、予想通りの答えが返ってくる。

「当たり前じゃない。でも、あの条件を呑んでくれるならいつでも力を貸すわよ。」
「ヴァルキュリスの勢力に下るという条件だったか?」

 想定どおりの返答に、アルテミスが冗談を交えて流そうとするが、ソワはそれを許さず、きっぱりと意義の一言で制す。

「違うわよ。」

 流せるとも思っていなかったが、アルテミスは彼女の示すあの条件の重みに気圧された。更に、きっぱりと異議を唱えた彼女行為。それが、彼女のあの条件に対する想いの強さを表している。こうなれば彼女に制されたばかりの軽い言動で回避することはできない。

「あなたが私のものになるならって言ったはずよ。」
「…。」

 それは昔の記憶。偶然に出会い、偶然に起こった戦闘から得た副産物。副産物という名の感情の観照。アルテミスの脳裏には、彼女と出会ったあの日の記憶が色褪せつつも鮮明に、あの条件を提示されるまで順を追って浮かんでゆく。その間、彼は安易に言葉を出すことができずにいた。

「今日は昔話をしにきたわけじゃないから、これで帰ってあげる。」
「…そうか。」

 アルテミスの感情を察し、ソワは答えを求めず帰還の言葉を述べる。アルテミスもその気遣いいに気付き、少々内心を乱しつつも返答した。その返答を聞くや否や、ソワはアルテミスに背を向け、ドアの方へと歩みを進める。

「何かあれば私の城まで来なさい。こちらも何か情報を得れば伝えてあげる。」

 ソワはそう言い、黒騎士と共に城を去った。
 それから数時間後、生き残った兵士達は月の城復旧に汗を流し、ユナやヨヅキ達は己の鍛錬に汗を流した。誰もがマオの革命を阻止しようと各々に奮起し、それをホークアイが中心となって纏め上げていく。そして、その夜。アルテミスは密かに姿を消した―――。


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