一陽騒動


「もう終わりかしら?」
「…。」

 地を這うように倒れたワースを見下ろし、メロウが可愛く微笑む。ワースの気力は既に限界の手前まで来ていた。いつもの大雑把な口調で言い返すこともできない。

「なかなか楽しかったけどもういらないや。」

 メロウは手のひらをワースに向け、核を生み出す。
 そして―――、

「バイバイ。」

 言葉と同時に緻密な核爆発を起こし、ワースにそのエネルギー全てを放った。大きく窪んだ地を一瞥し、メロウは再び城へ向けて加速に入ろうとしていた。
 しかし―――、

「あなたの相手は私よ。」

 メロウが飛び立とうとしたその寸前、少し前に殺した少女と同じ金髪の少女が後に立っていた。その傍らには、鎧の黒騎士がワースを抱えて凛と立っている。

「私がこのヴァルキュリス家当主のソワよ。まずは当主に挨拶してから敷地内に入ってほしいものだわ。」
「ふーん。あなたが一番強いんだ。あたしはメロウ。殺しちゃったらごめんね。」

 赤い長髪を緩い風に微かになびかせ、メロウはにこやかにソワを見つめる。

「残念だけど、手加減する気はないから。」

 ソワはそう述べると、瞬時にメロウの懐までもぐりこみ、目標の額に手のひらを向ける。

「鉄槌槍―スピアヴァニッシュ―」
「―――っ!!」

 大きな爆発音と爆煙が立ち込める。瞬時に核融合を起こし、ソワの攻撃を防いだメロウは高く飛翔し、煙の中に向けて上からの攻撃を放つ。

「落陽―ラクヨウ―」
「遅い。」

 煙に向け、太陽を想わせる火球を放った直後、後から声をかけられ、メロウは驚愕する。驚愕による反応の遅れを見逃さず、ソワは瞬時に妖気を放った。

「鉄槌槍―スピアヴァニッシュ―」

 完全にメロウを捉え、鉄槌の槍が地に刺さった。上空から砂煙立ち込める地上を眺め、メロウの姿が見えるまでじっと停滞する。ただ、目標の生死を確認する為に―――。
 少しずつ、少しずつ砂煙が風に流れて地上をあらわにしてゆく。そして、砂煙が完全に消える前に、停滞は解けた。

「やるじゃない、あなた。」

 最初に言葉を発したのはソワだった。

「私の攻撃に耐えられたのは二人目かしら。」

 やがて、砂煙が全て吹き飛び、地面に大の字で寝そべるかのように倒れたメロウが確認できるようになる。

「さぁ、立ちなさい。あなたが私に払うべき代償は、そんなに安くはさせないわ。」

 ソワの声が止まったと同時に、メロウは、そのままの体勢で不適に微笑んだ。

「フフフフッ―――。」

 そして、ゆっくりと起き上がり、ソワと同じくらいの高さまで静かに飛翔する。

「なかなか楽しかったよ。でも、本番はまだまだこれから。」

 メロウは、実に楽しそうに淡々と語った。それを、ソワが不快に思わないはずがなかった。

「あなた何を言っているの?本番も何も、次が死なのよ?」

 次が死。それはソワだけでなく、観察していた黒騎士にも十分わかっていた。スピード、攻撃力、詠唱速度のどれをとってもソワが勝っている。この真実に、否定できる要素は皆無であった。
 だが―――、

「今日はほんの入場料を貰いに来ただけ。参加の権利を与えにね。」

 突如、メロウ周辺の景色が歪む。

「世界はもう直ぐ動き出す。」

 歪みは更に増し、周囲の次元をも歪ませる。

「確実に、あの人が楽しめるように、変わってゆく。」
「待ちなさいっ!!」

 足から歪みに漬かってゆくメロウを見、ソワは慌てて言葉を発した。しかし、既に遅く、残るは顔だけが次元の外に出ている状態である。

「また会おうね。統合された新しい世界で―――。」

 そう言い残し、メロウは次元の中へ消えていった―――。


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