「絶対に許さないっ!!」 黒く蝙蝠のような翼も、それを示すかのように大きく広がり、怒りのあまり強く握り締めた、爪立った手からは血が滴り、自慢の八重歯は鋭く伸びていた。 「私の大切なものを奪うものは、生きて返すわけにはいかない。」 ソワの様子が気になり、駆けつけた鎧の男が言葉を掛けた。 「皇帝、今は怒りをお鎮めください。」 その言葉に、案の定、鋭い視線の拒絶が刺さる。 「お気持ちは至らぬながらも察しております。ですが、今はそのときでは在りません。」 鎧の男の言葉に、僅かながらの冷静を取り戻し、ソワは告げる。 「黒騎士。妹を殺したあれは何?」 唐突な質問。しかし、答えなければ、否、ソワに応えなければ彼の身にとばっちりが来る。 「あれは、陽術。コスモのものである可能性が非常に高いと私なりに判断いたしました。」 「そう。あの子達はもう出陣しているのね。」 「感知して直ぐ向かっております。」 ソワは理解を示すように真っ赤な天井を見上げ、その後、王座からスッと立ち上がった。 「黒騎士、いや、アヴェルツィア。」 「私はあなた様に仕える為、命と引き換えに名を謙譲した身。黒騎士とお呼び下さい。」 「黒騎士よ、お前は私について来るか?」 鎧の男は迷うことなく、即答する。 「盾となり、壁となり、皇帝の鎧となりましょう。」 二人は、加速し向かってくるものよりも素早く、勢いよく飛び立った。 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ その頃―――、 「火廻璃―ヒマワリ―」 マリンブルーの長髪の少女による、黄色い爆炎が、目標物の四方八方を囲うように花開く。 「火星連銃―マーズトリガー―」 そして、逃げ場を失った目標物めがけ、紫髪にツインテールの少女の二丁拳銃が連弾を放つ。 「それくらいじゃ当たらな〜い。」 目標物の少女、メロウはその攻撃を楽しむかのように避けてゆく。それが気に食わない、ツインテールの少女、ワースが愚痴をこぼす。 「何だよあの的。ちっとも面白くないぜ。」 その愚痴から、ワースの苛立ちを察した長髪の少女、アネモネが、冷静に言葉を返す。 「落ち着きなさい。今度はもっと範囲を殺すから。」 そう言い、アネモネは素早く妖気を溜め込む。 「射蝶―イチョウ―」 扇形の淡い黄色の爆炎がメロウの周囲に咲く。 「木星弾幕―ジュピターブラスト―」 二つの銃口から、今度は槍のような弾が無規則に放出される。二人による無茶苦茶な弾幕は、避けることはほぼ不可能なほどの密度と速度があった。しかし、それをも簡易に交わし、こちらへと向かってくる目標物。 「お前もっと殺せないのかよ?」 「十分やっているわ。集中力を乱さないで、それが相手に隙を与えてしまう。」 ワースのストレスは眼に見えていた。そして、冷静でいるはずの自分ですら、アネモネは感じつつあった。 「射程距離ギリギリを狙うしかなさそうね。」 「なんでもいいがそれで殺せるのか?」 「あなた次第よ。ただ、私は目標の行動範囲を完全に殺すから。」 アネモネは機を待ちつつ、威嚇の為、爆炎の華を咲かす。ワースも同じく、弾幕を撃ち続けた。 「いくわよ。」 「まってたぜ。」 アネモネはより一層冷静に、ワースは相変わらず乱暴に、妖気を放出する。 「火那外死―ヒナゲシ―」 目標物の周囲を、隙間無く爆炎が咲き乱れる。 「海王星閃放―ネプチューンスパーク―」 隙間無く咲き乱れた爆炎の輪よりも少し大きめのレーザー弾が、目標物に放たれた。アネモネが完全に逃げ場を殺し、尚且つ動ける範囲よりも大きな弾が発射され、事実上避けることのできない状態を作り上げた。更に、距離が近くなった為、考えて行動する時間も与えないという、二人にとって最後の手段である。 「弾が撃てるのは、あなたたちだけじゃないよ!!」 メロウが言い放つと同時に、二人による弾幕が弾き飛んだ。 「…うそでしょ。」 「的が弾出すとか反則だぜ。」 二人は各々に驚愕する。その隙は、二人にとって致命的なものとなった。 「二人相手じゃ荷が重いから、あなたにはどこかへ消えてもらうね。」 「―――っしまった!!」 アネモネが防御体勢に入る前に、メロウは手のひらで核爆発を起こし、爆風の圧力でアネモネを彼方へ、否、点すら確認のできない果てまで吹き飛ばした。 「さてと、次の遊び相手はあなたね。」 「上等だぜ。」 メロウとワースは一定の距離を置いて向かい合い、静かに機を待った。そして、どちらとも無く相手へと加速し、攻撃を仕掛けあう―――。 |
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