とある会話があった日から四日後の、月世界。王宮の一室で、賢人会議が開かれようとしていた。 「これで全員揃いました。」 アルテミスが参加者の出席数を数え終え、シンシアの隣の席に着く。 「遠路はるばるお集まりいただきありがとうございます。」 アルテミスの着席を確認し、シンシアが今回の議題を述べ始める。 「今回の件について、承知の方もおられるでしょうが、認識の統一を図るため、順を追って説明いたします。」 シンシアは尚も丁寧に語る。 「まず、事の発端は数日前、天界襲撃だと伺っております。私たちはその翌日、天界からの使者として来られた十七天使第五位、ジャスティス様の報告を受け、認識いたしました。」 「詳しくは後ほど、ジャスティス本人から伺いますので、次に移行します。」 シンシアの後にアルテミスが補足し、質問や演説の途切れをなくす。 「そして報告を受けたその日に、遊戯邸主人、ドランク様より側近のアルテミスの方に、妖魔界襲撃の兆しありとの報告が入りました。」 「伯爵は報告後、単身で妖魔界に戻り、現在報告待ちの状態です。」 先ほどと同じく、アルテミスが間を空けないよう補足し、次へ移ろうとしたその時―――、 「遊戯邸が…襲撃されました。」 ―――肩で呼吸するかのように息を切らし、疲労感を浮かべたメーディスが、会議室に飛び込んできた。 「メーディス殿!!」 「ジャスティス様!!」 逸早くジャスティスが反応し、メーディスもその声に反応する。その様子を冷静に判断し、アルテミスが指示を出す。 「ひとまず休ませた方がいい。ジャスティス、彼女を医療室まで運んでくれ。」 「わかりました。」 ジャスティスに抱きかかえられ、メーディスは医療室に運ばれることになった。 残された賢人達にもちらほらとざわめきが生まれ、先ほどの静けさがなくなってしまった。 「事は急を要することになりそうだ。」 そのざわめきを断ち切るかのように、一人の男が声を発した。 「シンシア殿とアルテミス殿、それからローレライ殿以外は退出してくれ。」 アッシュの長い髪を後ろで一つにくくり、左目に眼帯をした賊を思い浮かべさせる風貌の男、ホークアイが指示を出し、見張りの兵士や月世界の学者数人が退出して行く。彼の隣で、太陽族を象徴する漆黒の翼を背から出し、赤紫のショートがよく似合う淑女、太陽族の長、ローレライも口を開く。 「それと、医療室にいるジャスティス様に30分後こちらに来るよう伝えてください。」 兵士の一人が彼女の要求に承諾を示し、会議室に四人が残された。 「結論から言おう。僕はもう世界統合しかないと思っている。」 真っ先に、人間界を代表するホークアイが持論を述べた。 「このままだと天界、妖魔界が崩壊し、世界均衡にガタが来る。カオスゲートで繋がっている以上、崩壊の道ずれにあうのは想定される。」 この意見に対し、ローレライが違う提案をする。 「統合以外にも手はあります。カオスゲートの切断による隔離です。ほぼ二度と世界は行き来できなくなるでしょうが…。」 「それは不可能だ。この友好条約を守るためにも、危険にさらされている世界を救済するためにもカオスゲートの役割は大きい。」 ローレライの意見に、ホークアイが反論を述べた。 「特に、我々人間という種族は戦闘においてはひ弱な種族だ。各地で大量に現れたとされる貴世界の少女、メロウが一人でも人間界に来れば一瞬にして世界は落ちる。人間界の代表としてそれはできない。」 ホークアイの意見を聞き、ローレライは納得を示す。それを見て、今まで黙していたアルテミスが口を開く。 「ただ、統合にもリスクは存在する。ホークアイ、そのリスクが何かわかるか?」 「いや、そのような文献は僕は知らない。」 彼の返答を聞き、アルテミスは話をまとめる。 「リスクについてもだが、切断に関しても話をまとめようと思う。」 賢者の中でもとび抜けた叡智を誇るアルテミスの意見に、二人は集中する。 「まず、切断に関してだが、これは得策ではない。人間界への援軍が途切れると同時に対妖魔結界も消滅。反ヴァルキュリス派の残党が人間界侵略を企まない筈がない。切断はあくまでも行き来しにくくなるだけで、能力に長けた者であればカオスゲートなしでも世界に侵入することはできる。」 アルテミスは一呼吸置き、続きを話し出す。 「次に、リスクの件について。統合されることにより、世界は全て一つとして形成される。つまり、カオスゲートなしで行き来できるようになるということだ。それにより、現在天界と妖魔界で氾濫しているメロウの攻撃を全人類が受けることになる。反面、全勢力で対抗することができることを考えれば、メロウ排除後に友好条約などではなく、一つの世界として統率が取れる。こう聞けばリスクなど大したことではない。だが、ここからは文献には載っていない事項だが、五つの世界が一つに形成されるということに関してだが、質量を考えれば明らかに巨大な世界ができてしまう。しかし、これはあくまでも足し算した場合だ。世界形成は果たして足し算で可能なのか…。」 「何が言いたい?」 アルテミスの言い回しに、ホークアイがじれったさを覚え、言葉が漏れた。 「素体結合性理論の文献によれば、この五世界の各地に同素体地と呼ばれる場所がいくつか存在する。その場所は、対になる場所がそれぞれ存在し、火、水、風、土属性値の構成割合率が完全に同じということだ。そこから生まれた旧世界統一世界論によれば、同素体地は元々一つだったとされている。」 「つまり、元々一つであった遙か古の世界は、五分割され五つの世界を形成したということですね。」 アルテミスの説明を理解し、ローレライがわかりやすくまとめた。アルテミスもそれに頷き、話は更に続けられる。 「そういうことだ。ここで先にリスクについての結論を述べよう。世界を統一することにより、多くの命が大地と共に淘汰される。可能性があると付け足しておいた方がいいかもしれないが、同素体地が結合されると仮定し、おそらく多くの人が巻き込まれるはずだ。さらに、六世界という文献も存在するくらいだ。もしかすると、六世界による統合となる可能性もある。そうなれば、確認されていない同素体地が多く存在することになる。」 「つまり、どちらにしても犠牲は生まれるということだな。」 「犠牲なくして得られるものなし。と、いうことだ。」 ホークアイも理解し、アルテミスはしばし口を休める。 「統合か切断かの判断は既に決まっています。」 アルテミスと入れ替わるようにして、シンシアが久しく言葉を発した。三人は彼女に向き直り、彼女の下す判断を待った。 「明日の朝―――、世界を、統合します。」 シンシアの判断に三人は頷いた。 決議が終わり、統合に関しての説明が数名に伝達された。混乱を避けるため、一般には非公開。苦肉の判断ではあるが、今から態勢を整えるには時間が年単位で足りないのだ。 そして、伝達が済むと同時に、妖魔界から逃げてきたユナが合流する。アルテミスはユナを戦力に加えることをホークアイたちに伝え、ドランクとの密約(今となっては遺言である)を果たす。密約の内容はアルテミスの胸のうちである。ユナにもそれは知らされていない。 時は深夜に移り、明日の統合について、詳しい内容がアルテミスより知らされた。場所は、王宮の地下に眠る森の奥深くに隠された神殿。そこでとある儀式を行うことにより、世界は統合されるということである。その儀式はシンシアにしかできない。そして、神殿までの道のりには魔物が道を阻むとされている。 それらの事柄の説明後、同行者の名前が挙げられ、解散となった。シンシアに同行する者は、アルテミス、ヨヅキ、ユナ、ホークアイ、ローレライの五人。ジャスティスとメーディスには統合後、非戦闘地域の確立とその保守、並びに医療班との救済活動の役割が与えられ、ルナもそれに同行することとなった。 天界は地獄と化し、妖魔界も不穏の空気が渦巻く中、月世界の夜は静かだった。そんな静寂を保ったまま、夜は明けてゆく―――。 |
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