五日天獄

崩壊と統合、新世界の誕生。

「すばらしい―――。」

 暗く不気味な、一面機械の研究室。その隅で、一人の老人が歓喜を上げる。

「ついに、儂の理想が実現する。」

 その老人の目下には、赤い長髪の少女が台に横たわる。

「儂をバカにした研究者共、目にものを見せてくれよう。」

 老人は少女から離れ、馬鹿でかい機械の電源を入れる。ゴォォォと、大型のモーターが回転する音が室内いっぱいに広がり、少女の体が台に固定されカプセルの中へ投じられた。

「二度失敗してるのに、なぜ人体練成にこだわる?」

 ふと、後から声をかけられ、老人は振り向く。そこには、小学生か中学生くらいにしか見えない少年が立っていた。

「お前さんと同じく、儂にも生きていてほしかった人がいる。」
「…なるほど。」
「それより、お前さんの準備はできているんだろうな?」
「いつでも次元を創造できるよ。」
「あとは異世界の女神次第だな。」

 二人の会話に、カプセル内の少女が参加する。

「その心配は要らないよ。月の姫は必ずやってくれる。」

 老人は少女の方に向き直り、問う。

「何故確信が持てる?」
「政治のない国家なんて存在しないってマオが言ってたもん。」
「なるほど。」

 老人は頷くと、少年の横を通り過ぎ、退室する。残された二人は、尚も会話を続けた。

「あと五日だね。」

 少女の言葉に、少年は首を縦に振る。

「予定通りに進めばいいけど、マオはどう思う?」

 マオと呼ばれた少年は、確信を持って返答する。

「ボクの計算に間違いはない。あと五日で、ボクの世界が誕生するんだ。」

 その揺るぎない確信が、五日後、真実となる―――。



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 とある会話があった日から二日後の、ここは天界。

「残る部隊は一箇所に集まれ!天界順位法に従い、私が指揮を取る!」

 見るも無残に崩れ落ちた、天界の象徴たる宮殿を背に、十七天使第三位、天界一温厚とうたわれる彼、ユーティスが、誰もが疑うほどの緊張感を出し、指揮を振るう。

「十七天使で残った者は一度私の元に集合せよ!」

 第一位と二位の天使は一日目に力尽き、その他の十七天使の消息もこの三日間取れずにいた。その為、ユーティスは一度召集をかける。しかし、消息不明である者たちに声が届くのは奇跡に近いものだ。
 だが―――、

「おーいユーティス。」

 宮殿を迂回し、後方から桜色の翼が近付いてきた。

「サンクか。他の十七天使の消息はわからないか?」

 サンクと呼ばれた、見た目少年の天使。十七天使第十三位の彼は、ゆっくりとユーティスの前に降り立った。

「ペガサスは少し前に見かけたよ。たぶんこっちに向かってるはず。」
「そうか。」

 ユーティスが了解を示す。その後、直ぐに他の天使の声が聞こえてきた。

「ユーティス殿とサンク殿、ここにいましたか。」

 純白の翼を羽ばたかせ、十七天使第五位、ジャスティスが降り立つ。

「天界の西区と北区は壊滅です。生存者は一人もいないと思われます。」
「報告に感謝する。過労のところ申し訳ないが、第五位の力で私たちと共に戦ってはくれないだろうか?」
「順位法に基づき、第三位の指揮に従いましょう。」

 ユーティスの声が多くの者に伝わり、散々としていた天使たちが一箇所に集まり始める。

「襲撃者の数は計り知れないほど多い。我々だけではどうにもならない。そこで、同盟世界であるエターナルに協力要請を取ろうと思う。この任務をジャスティスにお願いしたい。」

 ユーティスの指揮を聞き入れ、ジャスティスは頷く。

「サンクは私と共に敵の討伐。それと、十七天使の消息確認をお願いする。」

 サンクもこれに同意し、それを確認したジャスティスは月世界に向けて飛び立った。彼の姿が見えなくなるのを確認し、ユーティスは戦線指揮を取る。

「まずは敵の殲滅が先だ。私は西側を担当する。サンクは東側の敵を頼む。」
「りょーかい。」

 サンクの了解の返答を合図に、二人はそれぞれ戦線へと飛び立った―――。


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